東レ
May 4th, 2011
有機薄膜太陽電池で効率5.5%、材料開発で接合面積を拡大
図1 東レが開発したドナー材料
開発したドナー材料を用いて、基板上に透明陽極、バッファ層、厚さ100
nmの有機薄膜、陰極を順に積層した太陽電池を試作した。素子の面積は25mm2。日本の地表が受ける太陽光強度に相当するエネルギ密度100mW/cm2という測定条件で、変換効率5.5%を達成した。バンドギャップは1.94eV、短絡電流は9.72mA/cm2、開放電圧は0.99V、曲線因子(FF)は0.574である。出典:東レ
図2 ドナー材料の構造
鎖状に連なるチオフェン(4)の一部を新規の骨格(1)と置き換えることで、HOMO準位を引き下げた。新規の骨格の側鎖は2種類あり、(2)の部分は分子の結晶性の向上に、(3)の部分は溶解性の向上に役立つ。出典:東レ
東レは、有機薄膜太陽電池向けの新材料を開発した(図1)。この材料を用いて、世界最高水準だと主張する5.5%の変換効率を達成した。今後は2015年までに変換効率7%を目指すという。
有機薄膜太陽電池は、Si(シリコン)材料を用いず、有機物だけからなる薄膜でpn接合を形成する。このため、印刷によって製造でき、製造コストを大幅に 引き下げられるロール・ツー・ロール法(R2R法)などを低温下で利用できる。太陽電池自体も折り曲げ可能になり、軽量化しやすい。Si材料を用いた太陽 電池と違って「大型・大電力発電用ではなく、小型電子機器の電源のほか、衣類やテントに組み込む用途を想定している」(東レ)。
一般に太陽電池を形成するためにはp型半導体とn型半導体の2種類の材料が必要だ。材料に有機物を使う場合は通常、n型の有機半導体(アクセプタ)であるサッカーボール状をした「フラーレン」の誘導体*1)と、 p型の有機半導体(ドナー)である直線状のポリマーを用いる。これらを溶液中で混合した後、透明電極に塗布することで太陽電池として機能する。太陽光が入 射すると、ドナー材料中でエネルギが高い励起子が発生し、電子と正孔が生まれる。その後、電子と正孔がpn接合の界面のエネルギ準位の違いによって分離す る。このように発電の原理はSi系の太陽電池と同じである。
今回、変換効率を高めた手法は2つある。まず、pn接合のエネルギ準位差を大きくすることである。こうすると得られる開放電圧が高くなる。次に、単位体積 当たりのpn接合の面積を広くすることだ。これによって励起子の拡散距離が短くなり、電子と正孔を取り出せる確率が高まり、電流が大きくなる*2)。
東レはドナー材料となるポリマーの分子構造を改良することで、pn接合のエネルギ準位差を大きくし、接合面積を広くした(図2)。チオフェンは4個のC(炭素)原子と1個のS(硫黄)原子が環状に結合した分子で、東レはこのチオフェンが直線状に重合したポリマーをドナーとして利用していた。チオフェン・ポリマーは光吸収やホール輸送を担う。
今回加えたチオフェン以外の骨格部分として、価電子帯のエネルギ準位に相当するHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位を下げる効果を持つモノマーを選んだ。開放電圧はHOMOと、伝導帯のエネルギ準位に相当するLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)との差で決まるため、開放電圧が従来の0.6~0.7Vから約1Vに向上したという。
単位体積当たりのpn接合の面積を広げるためには、アクセプタとドナーがより混ざりやすくなればよい。そのために新たに導入したモノマーに2種類の置換基 を加えた。置換基の1つは結晶性を高める効果を持ち、もう1つは溶解性を高める効果を備える。これにより接合面が複雑な形状を採ることで大面積化するバル クヘテロ構造が安定して形成できたとする。
【脚注】
*1)東レはPCBM([6,6]-フェニルC61-ブチル酸メチルエステル)を用いた。
*2)ドナーとアクセプタの界面が平面となる2層構造の有機薄膜太陽電池では、1%以下の変換効率しか得られない。
【EE Times Japan 2009年5月号「Building Blocks」、p.24 掲載記事】
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